【萬松山大安禅寺】歴史を継承しながらも独自のスタイルで発信を続ける。副住職 高橋玄峰さんにインタビューしてきました【坊主めぐり】
福井県は、漫画「ちはやふる」に登場するように、「かるた」の強豪県で子供たちは保育園の世代から「かるた」や「百人一首」に触れて育ちます。
企画「坊主めぐり」では、「かるた」の遊び方の一つ、「坊主めくり」のように、福井に昔からあるお坊さんをインタビューしてめぐりながら、福井の歴史や魅力をたどっていきます。
今回は大安禅寺の副住職 高橋玄峰さんにインタビュー。
大安禅寺への想い、令和の大修理、コロナ禍、オンライン座禅など、副住職のお人柄にも迫るお話をじっくりとお聞きしてきました。インタビューを呼んだ後は、会いに行きたくなること間違いなし!
- 大安禅寺
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大安禅寺さんでは生き生き法話、オンライン座禅、精進料理、花菖蒲まつり、ワークショップなど様々な催しをされていらっしゃいますが、どのような思いで企画、開催されていらっしゃるんですか?
「お寺」「法話」と聞くとちょっと身構えてしまうところがありますが、楽しそうなワークショップを開催されているのを拝見して、わたしも参加してみたくなりました!
- 高橋さん
- 興味を持ってくださるきっかけは、精進料理なのかもしれないし、花菖蒲まつりやオンライン座禅かもしれない。
みんなそれぞれがいろんな思いを抱いて生きているので、お寺に足を運ぶ入り口の数は、沢山あっていいと思っているんです。ただ、その一つ一つの企画にはしっかりメッセージ性を持たせています。あとは、企画運営している自分たちがわくわくして、楽しいと思えることをやっているだけです。
ただ、楽しいイベントをする、面白いことをするお寺を目指しているわけではありません。
やはりお寺とは、入った瞬間にピンと背筋が伸びる空気が流れている、非日常、異空間な場所。大安禅寺でもそのように感じてもらえるように、毎日の掃除や整理整頓、仏教行事などきちんと空間を整えおくことも大切にしています。福井県内だけではなく、日本中、また世界中の人にとっての「こころの道場」になることを目指しています。
大安禅寺さんは、いつ頃から今のようなスタイルになったんですか?
- 高橋さん
- 建立当初はお殿様のお寺として建てられた大安禅寺でしたが、その後民衆にも門戸を開き、徐々に文人、文豪、家臣、家老なども集う開かれたお寺になっていました。
しかし、松平家から手が離れてからは徐々に衰退していくばかり……。そんな中で私の祖父は、父を含めて兄弟4人、農業をしながらなんとか育てていました。
約30年前、父が修行道場から帰ってきたときに、「このままじゃだめだ。何か手を打たなければ」「お寺はどういう風にすると人に来てもらえるようになるんだろう」と考えた結果、現代に合わせた形でみんなが耳を傾けたくなる法話や観光などに力を入れ、広く門戸を開いていったことが今に繋がっています。
そんなお父様の背中を見て育った副住職は、どんなお気持ちでお寺を継承されていますか?
- 高橋さん
- 27歳の時、修行道場から帰ってきた私に父親は一言、「来年からはおまえが法話をやれ」と。最初の1年は本当に大変でしたよ。まずは父のまねごとから始めようと思って法話をしてみましたが、父が約30年、年間300回以上もやってきたことを、その通りに最初から出来るわけもなく……
旅行会社さんは、父が法話をすると思って観光バスでお客さんを連れて来ているので、来てみて私が法話をすると、ガッカリだと罵られることもありました。冗談もうまく言えないし、土下座したこともあります。このまま評判が落ちて、観光バスが来なかったらお寺は潰れてしまうのでは……と、その頃はすごく悩みました。
悩む日々から、どんな風に乗り越えられたんですか?
- 高橋さん
- ある日、法話が始まる前に、罵倒してきた男性がいたんですが、法話を聞き終わったあとに「あんなこと言ってすまんかったな~」と言われたことがありました。その時、自分の信じているものを丁寧に伝えると、それが相手にしっかり伝わるんだなと、お客様から救われた瞬間でした。
その出来事から、人に向かって法話するのではなくて自分に向かって法話しなければならないんだと気づいたんです。その時に初めて、「おやじは30 年間、こんな立ち位置で自分たちを食べさせてくれていたのか。このお寺を支え続け、復興し綺麗に構築してくれてすごいな」と初めて父の気持ちと一つになれた気がしたのと同時に、やっと師匠と弟子になれた気がしました。
現在のコロナ禍についてお聞きします。今の世の中をどんな風に見て感じていらっしゃいますか。
- 高橋さん
- コロナが流行し始めた頃、これからどうなるか分からないという中で、「さあ、どうやって生きる?」とひとつの問題提起をされているように思いました。コロナ前までは、お陰様で毎日忙しく法話で全国を回っていましたが、その予定が全部なくなりました。お寺にお参りに来る方もいません。2020年3~5月は「不要不急の外出は控えてください」という中でお参りや法話は不要なのか?僧侶の役割って何なんだろう…?と突きつけられ、悩みましたね。
そんな中で、オンライン座禅を始められたんですね。
- 高橋さん
- コロナが流行る少し前から、YouTubeやInstagramで座禅を発信しようと思っていたので、若い方とも一緒に協力し合い今がその時だ、ということですぐに始めました。
実際にリアルで座禅に来ていた人たちは20数名いましたが、オンラインで始めたばかりの頃は10名ほどになりました。ただ徐々にヨーロッパ、アメリカなど世界中の人々が参加してくださるようになりました。参加人数は100人、150人、多いときには200人になることも。今でも朝晩、毎日開催していて1年以上続いています。
オンライン座禅を始めるまでは、座禅はオフラインじゃなければいけないと頑なになっていたところもありました。ですが、いざやってみたら意外に気持ちの切り替えもできるものだな、というのも発見でした。
オンラインの便利さを感じつつも、改めてオフラインでの人と人との交流の大切さ、心の調和の大事さも感じています。有料のオフラインだと、この場所に来るまで時間、お金、移動などいろんなハードルがあり不便にも感じますが、お客さんが来るか来ないは、その方とお寺との縁をゆっくり紡いでくれていた時間だったんだと気づかされました。緩やかに縁を紡ぐことができるのは、オフラインにしかできないことです。
この先、大安禅寺をどんなお寺にしていきたいですか?
- 高橋さん
- これまで20数年間インプットしてきたものを、これからどうアウトプットしていこうかと考えたとき、大安禅寺の修理を通して、歴史文化や建物を後世に残していきたいと考えました。お寺の文化財価値や歴史的価値を皆さんに知っていただく機会を増やし、福井に住む方にとって大安禅寺というお寺を誇りに思ってもらえるように。また県外の方には「福井にこんな素晴らしい場所があったんだ」と知ってもらえるようなお寺にしていきたいです。
令和の大修理について、詳しく教えてください。
- 高橋さん
- 本堂を含む8棟の建物が国の重要文化財で、姫路城や、熊本城などと同等の貴重な文化財として認定されています。福井市は昭和初期の震災、戦災でほぼ焼失してしまい、歴史的建築物はほぼ残っていないんです。なので、ここは福井の歴史資料館のような場所。福井市では唯一無二の文化財となります。その大安禅寺の本堂など8棟が文化庁の「特殊修理事業」に選ばれ、この度大規模な保存修理事業を開始しました。福井県で認定されたのは初めてのことです。それだけ大安禅寺には歴史的価値、文化財的価値、ストーリーがあると認めていただけたということが誇らしくもあり、同じ福井に住む方、地元の皆さんにも誇りに持ってもらえたらなと思います。
修理は2018年~2029年12月末まで続きます。この修理事業は国で定められている公開事業なので、修理をしながら宮大工の技術、歴史建物について発信していきます。発信方法は広報誌、YouTube、誌面タブロイド紙など。今年度の終わりには現場の一般公開も予定しています。
2022年の目標を聞かせてください
- 高橋さん
- 来年のテーマは「和気豊年を兆す」です。
2022年の干支である虎というのは「芽生えて伸びていく年」「何かを育む年」を表します。
「和気=人間関係の和睦」が私たちの心を育て、人と人との心の摩擦が良き熱量となり、社会を回していく。それが豊年の兆しになって欲しいという願いを込めてこのテーマにしました。
これからの福井の魅力について、福井県の魅力はどんなところにあると思われますか?
- 高橋さん
- 福井はすべてが魅力になりうる原石だらけの場所、伸びしろの宝庫です。北陸新幹線で富山、石川、福井が繋がれば全国からの注目も集まります。日本で一番成長していける県だと思いますので、福井独自の成長を見せられたらなと思います。
副住職のこれまでの苦悩、コロナ禍での葛藤、そしてオンライン座禅の開催。また、現在進行している大安禅寺の大修理を通して、福井県の誇る歴史文化を後世に残していきたいという、お気持ちをお聞きしてきました。
終始、和やかで穏やかにお話くださる副住職ですが、まっすぐで力強い目の奥に、確かに光る熱い想いを感じずにはいられません。
法話を聞きに来られた方の中にも、日常にある「禅の心」への気づきとともに、常に前を向いて挑戦、変化を続ける副住職の姿勢に、心を打たれる方も多いのでは?
令和の大修理という貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
基本情報
臨済宗妙心寺派 萬松山 大安禅寺
《住所》〒910-0044 福井県福井市田ノ谷町21−4
《TEL》0776-59-1014
《拝観時間》平日:午前9時から午後3時(最終受付)土日祝日:午前9時から午後4時(最終受付)
《定休日》毎週火曜日
そんな方でも「私が来てもいい場所なんだ」と思っていただけるように、気軽にお寺へ足を運んでいただけるきっかけになればと思って企画しています。
法話は、難しい話ではなくユーモアを交えながら日常生活に溶け込んだ「仏教」や「禅」の教えをお話しています。来てくださった方が、そこからなにか一つでも気づきを得られたらいいなと思います。